百円ハウス――『木の上のお城』 2023/09/30 by Ω No comments 森忠明 胎内回帰願望か退却神経症か分からないが、八歳前後の頃、私は“かくれが”作りに凝った。場所は国立立川病院と米軍基地にはさまれた原っぱ。深さ一㍍くらいの穴を掘り、その上を古トタ Continue reading →
我が犬の恩――『しっぽを ぱたぱた』 2023/08/31 by Ω No comments 森忠明 十九歳の秋、私は師匠の寺山修司から詩の朗読についての小論を書くように言われた。十枚足らずの中に三箇所も師の本からの引用があった。それが気にくわなかったらしく、「ぼくを番犬み Continue reading →
片恋地獄篇—―『ごめん』 2023/07/31 by Ω No comments 森忠明 先週、地元のロータリークラブで講演をした後、会食していると、ワインをきこしめして赤い顔になった幹事のO氏が、「森さんの初恋はいつ頃ですか」と言った。「小学三年生の二学期かな Continue reading →
ぬれぎぬ――『トランプ占い』 2023/06/30 by Ω No comments 森忠明 国内最大手の銀行に勤めているMは私の高校時代の級友。横浜のマンションで一人暮らし。先日遊びに行くと、七十万円もした油絵が梱包されたまま壁に立て掛けてあった。「なぜ飾らないん Continue reading →
黒い蝶を追う――『痴人のたわごと』 2023/05/31 by Ω No comments 森忠明 「あなたの創作に一番欠けてるものを持った本が手に入りましたんで取りにきませんか」と、エラソーな電話がかかってきたのは今月九日。その人、石井道郎先生は九州帝大出のエリートだし Continue reading →
二重虹のように――『ノートに書いたながれ星』 2023/04/30 by Ω No comments 森忠明 タクシー運転手をしている幼なじみに言わせると、私は「日本一セコイ作家」なんだそうである。理由は「死んだ姉貴のことだけで何冊も本を書いちゃったり」して「取材のためのタクシーな Continue reading →
老賢人と因業――『あるがままを受け入れて』 2023/03/31 by Ω No comments 森忠明 おととし、NHKテレビのリハーサルで、登校拒否の経験を喋っていると、女性ディレクターが近寄ってきて「不登校と言いかえてくれませんか」。 たしかに私の場合、学校 Continue reading →
七百分の一天使――『のんちゃん』 2023/02/28 by Ω No comments 森忠明 成人式の日に築地本願寺で通夜があった。私の高校時代のK先生(数学担当)が、六十三歳で病死したのだ。久しぶりに会した元同級生十人は「ちょっとお茶でも」と有楽町へ流れた。喫茶店 Continue reading →
巣立ち前夜――『また、あした』 2023/01/31 by Ω No comments 森忠明 毎年、正月は妻の実家がある広島市で迎える。元日と二日は家族サービスに徹し、三日は放免されて単独行動、必ず「ひろしま美術館」へ行く。 ことしもお気に Continue reading →
絶景貧乏性――『空と話せる指定席』 2022/12/31 by Ω No comments 森忠明 昨春、初めて福岡タワーに昇った。生来の高所恐怖症と”絶景貧乏性”のために、展望台でのコーヒーを味わう余裕もなく、そそくさと降りてきた。 Continue reading →