黄ばんだ童話―森忠明『ハイティーン詩集』(連載27)

ハイティーン詩集以降

 

森忠明

 
黄ばんだ童話
 
朝の食卓で四歳の娘が
保育園へ行きたくなさそうにつぶやく
「いちごジャムはいいな
びんのなかでねむっていられて」
パパもそう思う
できれば それ以前の姿
摘み忘れの苺のように
毛深い葉っぱに隠れて眠りたい
実際
寝てばかりの四十七年
出会った女はみんな
「わたしがやしなってあげる」
というので
主に眠ってきた
「集団出世をしよう」
と詩の師匠に励まされたが
おれは眠っていて出世しなかった
 
夜の散歩で五歳の娘が
ごみ置き場に童話をみつけた
パパが二十年前に
チャイルド本社から出したやつだ
〈ドネは迷子の係〉というおはなし
持ち帰って濡れティッシユで
色焼けした表紙をふいてから読んでやると
「パパ こんなにながいのよくかけたね
てんさいなの?」
とかいいながら眠ってしまう
The sleeping Beuaty
来月からさくらぐみ
コンピユーターの勉強がはじまる
壕の中のジャムが
羨む寝顔だ
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8442,2022.2.28)