呪歌―森忠明『ハイティーン詩集』(連載15)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
呪歌            東京キッドブラザーズ「黄金バット」のためのパロディ
 
渋谷に静かに寝起きして
思えば涙ぞおさええぬ
儚い此の世の悦楽と
知らざりけるこそ日本あわれ
 
はたとせ裟婆に宿りして
サンスターで歯を磨き
うつつならぬぞあわれな神を
今日もハチ公横で待つ
 
花の東京を振りすてて
みめよき女と安月給で
楽しく老けるはおぼろけか
後生わが身をいかにせん
 
彼女の身なげし昇降台
などかわが身を誘うらむ
いやしきメトロポリスの一角に
靴はあれども主はなし
 
われらが時代のめでたさは
此の世に生まれた罰あたり
身を変えふたたび罰あたり
ゆめゆめいかにも生きながらうな
 
病はあまたあんなれど
生まれでてきた物すきは
死んでも癒えぬ病なり
たれを呪いてよろぼいゆかむか
 
黄金バットは舟筏
太平洋にぞ浮かべたる
共に生きたき人あらば
乗せて渡さむ東京ねはん
 
人の音せぬ東京で
神はたれぞとたずぬれば
神も昔は人なりき
われも終には神なりき
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8099,2021.02.28)