別言―森忠明『ハイティーン詩集』(連載14)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
別言
 
左様なら   万全を期したはたとせ
不愉快だった
口笛で呼びとめられたあの五月
その俺の口笛で呼びそこねた日夜
左様なら歯にはさまっていた小骨
日本の三尺幅の路地にいつしか
水菰のように発していた   こひびとよ
一匹の劣情さえ屠ることもなく
はたちにもなりながらいい人間になる為の
ひたぶるな祈りのかいも無く
俺は忘れよう
俺は袖にしよう
切愛とは俺の趣意に俺が殉じてゆくことで
この世の物とも思われぬひと
せめて生あるうちに夢中を歩み
悪気なく後日を暮せ
もう俺もはたちであらゆる成就を信じない
あらゆる愉悦を想わない
死ぬ程にもない恥   死ぬ程にもない歓楽と
今さらながらの失意を横抱き
首夏のプラットホームに立ち
半眼に聴くアナウンスはアラビア遊牧民の頭目のように孤り雄々しい
 
希望という名の純情やたかが寝て待つ愛情や
生あるうち生を浚渫することは
あまりに不測あまりに不尽
今晩こそ俺は孤高に熟れ決然と夜を潜り
幾百幾千の灼くほろにがい夢も見納めて
日夜は何も工面せず
風は何にも因まずに吹いてゆけ
実際俺は起死が冀いのわけがなく
回生したいわけでもないがいつかまた
半ば捨身である盛夏
微苦笑だけを携えて
起床や愛を他愛なくやりに来るだろう
俺はそればっかりを楽しみに
おおこひびとよ   そればっかりを祈っていてくれ
 

●        寺山修司
森忠明は父親になることを拒否して、いつまでも息子でいようとしているのだが、息子と父親との距離がどんなに遙かな旅路でも、時速百キロでとばさなければならないのだ、いつかは……

 
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8075,2021.01.31)