未明―森忠明『ハイティーン詩集』(連載12)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
未明
 
女のような流し方をする
あの懐しくも愚劣な街の銭湯で
したたか友情に酔いながら
おれはついそんな批評を君に呈したことがあった
別れしな君の悩みの種だった朽ちかけの前歯が
紅茶茶碗にぽろっと墜ち
君はそいつを眺めながら
ぼくは了った と自註してくれ
君は未明の新宿を歩き
冬の日本海がいかに暗たんとしたものかを語りつつおれをまいた
おれはおれたちが同じく飢え同じく息を殺し
どこをどう巡り誰を尋ね
どんな微苦笑どんな弁舌をやれば
どんな天運によってどこへ爪先を向けるのかを知るだろうなどと
百円易者のようなことをどもりつつ君をまいた
君はおれにまかれてくれて
おれはまかれたふりをして
おれは恐縮し君は苛立ち困憊しそして照れ
冬のごきぶりとナフタリンとでがらしの紅茶の下宿で
君によく似て物欲しげなおれと
おれによく似て怖ろしく小心な君は
一体何を何のために解き明かそうとしていたのか
おれたちにはやはり
白いトレイニングパンツの可憐な娘との仲を成就させることや
人の情宜を知り尽くすということは
あまりにも人の夢に似ていたから
君は雪の燧道から現われる古里を思い
おれは郊外の百Wの塒を思っていた

あれから二年になるけれど
またいつか上野駅あたりの雑踏で
ばったり逢うこともあるだろう
が、既にその時は
互いにまきあうほどに誠意でなく
輝く文明妖しく唸る女
人世の真実!にさえおれたちは
おどおど汗ばむこともできなくなっているはずだ
 
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8004,2020.11.30)