これからの「対コロナ戦略」を考える――児玉龍彦氏の提起を踏まえて

鳴海游

                                                 
1. 日本の死者数が少なかったのは何故?
   新型コロナの感染が完全に収束したわけではありませんが、それでも日本の新型コロナ「第一波」は過ぎたのは確かでしょう。日本ではPCR検査数が絶対的に足りないので、公式の感染者数からそう断言するのはためらわれますが、重傷者数のデータ(注1)から見ても、<感染自体は非常事態宣言が出されたころには、すでに収束に向かっていた>との推量に誤りはないようです(注2)。
    こうして「第一波」が過ぎ去ってみると、日本の(人口当たりの)死者は、欧米と比べて極めて少ない。https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death.htmlによれば、6月6日時点での人口100万人当たりの死者は、イギリス593.07人、スペイン580.35人、イタリア558.60人、フランス445.98人、アメリカ329.73人、ドイツ103.73人に対して、日本は7.17人で、二桁少ないレベルです。
    この違いはどうして生じたのか?日本の被害の少なさを、もっぱら日本人の生活習慣や「クラスター対策」に求める見解もあり、果ては「民度が違う」なんて仰る政治家もいる。しかし欧米に較べて死者が少ないのは、東アジア諸国に共通しており、日本の人口100万人当たりの死者7.17人は、台湾0.29人、中国3.22人、韓国5.32人よりも多い(6月6日現在)。フィリピンも、日本よりは多いが、9.01人にとどまっていますから、上のような主張に科学的な根拠があるとは思えません。
    また「クラスター対策」について言えば、東京の感染者数は、その後の抗体検査の結果から、公式の数値の10倍以上と推論されていますから、少なくとも東京などの巨大都市圏では「クラスター対策」という手法で対応できなかったことは、明らかでしょう。日本が中国・韓国などに較べて致死率が高いのは、すでに世界標準となっている「膨大検査」という手法を拒否して、ガラパゴス的手法に固執したことがその原因ではないか。じっさい日本ではPCR検査を抑制したことで、診断が遅れて死んだ人も少なくありません。
   しかしこうした戦略ミスにも拘わらず、日本での新型コロナの被害は、欧米から比べると、著しく低いレベルにとどまっています。これは外国からも奇妙に見えるようで、米外交誌「フォーリン・ポリシー」の記事は、「コロナウイルスとの闘いで、日本がやっていることはすべて間違いに見える」が、「すべては不思議に(weirdly)うまく行っているように思える」と言っている。
   新型コロナに対する今後の戦略を考えていくためには、まずこの「不思議」にアプローチしておく必要があるでしょう。
 
2. 何が「ファクターX」か?
   山中伸弥氏は、日本の感染拡大を欧米に比べて緩やかなものにしている(未知の)理由を『ファクターX』と名付けていますが、山中氏はその候補として、日本人の「清潔意識」、「BCGワクチン」仮説、上久保靖彦氏(京都大学特定教授)と高橋淳氏(吉備国際大学教授)の「日本人の多くはすでに新型コロナの免疫を獲得している」という仮説を挙げています。https://bungeishunju.com/n/n7405e66118c9
   BCGワクチン仮説については、すでに紹介していますから、ここでは上久保氏たちの仮説を紹介しておきましょう。山中氏によれば、上久保氏たちの仮説を次のようなものです。
 

「新型コロナウイルスには、軽症で済むS型と、そこから変異したL型の2種類が存在するという説があります。この比較的弱いS型が、L型よりも早く中国から日本へ伝播したことで、日本人の一部はすでにウイルスに対する免疫を持っている、だから感染拡大が他の国より遅いのではないか、というのが上久保さんの説です。/その根拠としては、例年1〜2月に大流行するインフルエンザが、昨年12月から患者数が増えていない。この原因としては、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスが競合したからではないかと考えておられます。つまり、1〜2000万人くらいの日本人はすでにS型にかかっていて、インフルエンザの感染を阻害したのではないかという予想です。」

 
   この上久保氏靖彦氏たちの論文については、上久保誠人氏が「日本のコロナ致死率の低さを巡る「集団免疫新説」が政治的破壊力を持つ理由」で紹介していますので、興味のある方は、そちらをご参照ください。
   なお、山中氏のサイトでは、「2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響」がファクターXの候補の一つとして挙げられています。これは、直接には上久保氏たちの論文を念頭に置いたものかもしれませんが、「2020年1月までの、何らかのウイルス感染」ということであれば、(上久保氏たちが問題にしている)昨年末から今年1月より前の時期についても、検討対象となるでしょう。
   じっさい児玉龍彦氏(東大先端研)は、2003年以降の東アジアでのウイルス感染が人びとに新型コロナに対する免疫を与えたのではないかという仮説を提示しています。
 
3. 日本人の多くが、すでに新型コロナに対する免疫を少し獲得していた?
   児玉氏は金子勝氏との対談(「コロナと闘う戦略図」)の中で、次のように言います。 
 

「我々は抗体検査をずっとやっていまして、解ってきたのは、日本人はコロナウイルスに対して、今まで言われていたのと違って、少し免疫を持っているんじゃないか、ということを疑わせるようなデータが出てきました。」
「実は中国でも沿海部の方は日本と同じように、コロナの分かってないやつに掛かってたんじゃないかという気がしまして、内陸部の武漢で起こって、沿岸部の香港とか上海なんかはあんまり滅茶苦茶な数にならない。」
「B型肝炎という肝炎のウイルスの場合なんですけど、最初に抗原というのが出てきます。黄色で書いたもの、抗原に対して抗体というのが出て来て感染が収まっていく。この場合にはHBc抗体というがありまして、最初にIgMと言われるやや大きい抗体が出て来て、それでIgMというクラスのものから、IgGというクラスのものにクラススイッチというのが起る。このクラススイッチが起る間にいい抗体が選ばれるというふうになっていって、IgGの良い抗体が増えて来て感染が収まります。ですけれども二度と罹らないようにする免疫が出るのには、非常に強い中和抗体というのが出来て来なくちゃいけなくて、HBc抗体ではあんまりうまく行かなくて、HBs抗体と言われる抗体が出来てくると二度と罹らない。」

「[児玉氏たちが新型コロナウイルスの感染について抗体を精密に計測した結果としては]先にIgGが出て来ちゃう人が多い。……IgMが最初にぐっと上がる人は重症化する。……わりとIgMの反応がゆっくりの人はあんまり重症化しない人が多い。……このデータを一番素直に解釈すると、じつはなんか似たコロナに免疫持ってんじゃないか、という気がしてきた。……IgMがなくてもすでに免疫がある。ウイルスっていろいろな抗原基がありますから、すでにもともと持っていて、それに進化があってこうなる。元々の方に多少抗体があるとあんまり重症化しないようになっている可能性がある。」
「サーズが起ったのは2003年ですから、もう17年前、その17年間にコロナが進化しているとしたら、いろんな格好のものがあって、それで風邪コロナの変形かも知れないし、サーズの変形かも知れないし、コロナXみたいなものに非常に若い世代中心にこの間、晒されてきたんじゃないか。それで日本がちょうど国際化して、中国の方もいっぱい来るし、アメリカの方もいっぱい来るというふうになっていますんで、特にこういうのが流行るのは、最初は保育園レベルの、ベロベロいろんなものを舐める子供たちとその親のところで流行るというのが、一般的にありますので、その年代を中心にかなりこのコロナX、サーズXみたいなものに罹っていたんじゃないか。」

 
   蛇足ながら、以上の児玉氏の指摘を要約すると、
① ふつうウイルスに感染した場合はIgMと言われる抗体が先に出て来て、それから、IgGという抗体が出てくる。
② ところが児玉氏たちが計測した結果では、IgGが先に出て来る人が多い。
③ IgGが先に出て来る人は重症化しないが、最初にIgMの数値が上がる人は重症化する、という傾向がある。
④ この結果を素直に解釈すると、多くの人(先にIgGが出て来る人)が、新型コロナに似たコロナに免疫持っている可能性がある。
⑤ 2003年のサーズ以降、東アジア沿海部でコロナX、サーズXとでも言うべきウイルスの感染拡大があり、国際化によって日本でも、若い世代を中心に多くの人が感染した結果、新型コロナに対しても少し免疫を持っているのではないか。
ということになるでしょう。
 
   児玉氏の指摘は、もちろん現時点では仮説ですが、抗体を精密に計測した結果に基づいていますから、<日本人の多くが新型コロナに対して――その流行以前に――ある程度免疫を持っていた>ということの有力な証拠を提示するものと言えるでしょう。またBCG仮説や上久保氏靖彦氏たちの説、そして児玉氏の説のうち、複数が「ファクターX」であることもあり得ます。
   いづれにしろ、「日本人の多くが新型コロナに対してある程度の免疫を持っている」ことを確認できれば、経済活動の再開と両立するような対コロナ戦略を打ち建てることは、十分に可能となるでしょう。
 
4. 深刻な不況になると、どれだけ自殺が起こるか?
   以上のように言うと、「少し、経済活動の再開に前のめりになっているのではないか。もし第二波で日本が欧米のようになったらどうするのか」と言われるかもしれません。しかし、以上で見てきたことから、日本がこれから欧米のようになる可能性は極めて低い一方、前回も書いたことですが、経済の疲弊は、健康を破壊し、教育水準を低下させ、犯罪を生み、自殺を生み、戦争さえ招きかねません。
   問題を自殺にだけ限定しても、このまま経済活動が停滞すれば、日本では経済の停滞に起因する自殺者数が新型コロナの死者数を大幅に超過することになるでしょう。
   経済動向と自殺という問題を考えるために、まず1978年以降の日本の年平均失業率と経済・生活問題による自殺者数――以下では単に“自殺者数”と表記――の推移を示すグラフ(筆者作成)を掲載しておきます(注3)。

 
   ご覧の通り、失業率の増減と“自殺者数”の増減はあきらかに同調しています。と言っても、ここで失業率を掲げているのは、景気の「代理変数」としてですから(注4)、同調しているのは、景気動向と“自殺者数”と言い直しておきましょう。では景気が悪くなるとどれだけ“自殺者数”が増えるのか。グラフでは2009~10年のところに失業率の二番目のピーク(5.1%)がありますが、2009年=平成21年は、前年9月のリーマンショックを受けて、日本経済が深刻な打撃を受けた年でした。そしてこの年の“自殺者数”は8377人にのぼり、翌2010年も7438人となっています。
   新型コロナの経済に及ぼす負の影響がリーマンショックを凌ぐものだということは、ほぼ確実ですが、仮にその影響がリーマンショック時と同程度に留まったとしても、“自殺者数”は、十分な対処をしない限り、昨年(3395人)より5千人は増えると想定しておくべきでしょう。これは日本の新型コロナ第一波での死者数(6月10日現在、936人)の約5倍にあたる数字です(注5)。
 
5. 経済・雇用はいまだ経験したことのない水準に落ちこむ
   次に、今後の景気動向と失業率に関する木内登英氏の予測(「失業者265万人増で失業率は戦後最悪の6%台:隠れ失業を含め11%台に」)を紹介します。

「今回の景気の悪化は、リーマンショック時を上回る可能性が高い。筆者の見通しでは、実質GDPは1年間マイナス成長を続け、2019年7-9月期のピークから11.6%下落する。これは、リーマンショック後の景気の落ち込み幅の約1.3倍である。/リーマンショック後と同様に就業者数の弾性値を0.34とすると、労働者265万人が職を失う計算となる。その場合、失業率はピークで6.1%に達する」
「失業者とは定義されないものの、休業状態にある実質的な失業者数は、相当数に達するだろう。/隠れ失業者数は、リーマンショック時には355万人、今回は517万人と推計できる。その場合、隠れ失業者を含む失業率は11.3%まで上昇する計算となる。」
「当時[リーマンショック時]以上に雇用維持に寄与する積極的な経済政策が実施されれば、失業者増加数をこの試算値以下に抑えることは可能ではある。しかし、その可能性は高くないのではないか。/それは、リーマンショック時と比べて、雇用情勢をより悪化させやすい要因があるからだ。リーマンショック時には、……最も大きな影響を受けたのは、輸出型大企業であった。/それに対して現在では、最も大きな打撃を受けているのは飲食業など内需型サービス業である。それらは、中小・零細企業が中心である。大企業と比べて中小・零細企業は雇用を維持する力が格段に弱いはずだ。」
「政府による雇用維持の政策、あるいは企業の経営維持を図る給付金、家賃支援策などが十分に機能しない場合には、中小零細企業で倒産、廃業あるいは雇用者の解雇の動きがより広範囲に広がることになるだろう。/そうしたケースでは、景気悪化に対する就業者の減少の弾性値が、リーマンショック時の0.34の2割増し、つまり0.41になると仮定しよう。その場合、失業者増加数は318万人と300万人を上回り、失業率はピークで6.9%と未曽有の7%水準に近付く計算となる。」

 
   木内氏の予測に従えば、新型コロナの経済への打撃は戦後の日本が経験したことのないレベルのものであり、失業率のピークは、標準シナリオで6.1%、リスクシナリオでは6.9%に達し、「隠れ失業者を含む失業率」は標準シナリオでも11.3%になる。今年1月の日本の雇用関連データを見ると労働力人口は6901万人(就業者は6740万人、完全失業者は152万人、失業率は2.4%)ですから、11.3%の失業率は800万人近い人々が失業することを意味するでしょう。これは戦後の日本が経験したことのない状況であり、このままでは経済・生活問題による自殺者数だけでも、新型コロナ感染による死者数を大幅に上回るのは確実でしょう。
   こうした状況に対しては、まず「雇用維持の政策、あるいは企業の経営維持を図る給付金、家賃支援策」、あるいはその他の各種給付金・補償、そして消費税減税などが不可欠であるのは言うまでもないでしょう。しかしそうした政策によって経済を支えることには、どうしても限りがあります。やはりなんとかして経済活動を再開させるのが一番有効な対策でしょう。そのためには、経済活動を再開させ得る「対コロナ戦略」を立てる必要があるわけですが、そのような「戦略」は果たして可能でしょうか。
 
6. 「ステイホーム!」ではない「対コロナ戦略」とは?
   「ロックダウン」=「ステイホーム」を要とする「新型コロナ」戦略に対する「代替的な対コロナ戦略」については、既に前回紹介しておきましたが、5月に入って、児玉龍彦氏から――政府・専門家会議の「ステイホーム」路線とは全く異なる――「対コロナ戦略」が提示されています(「コロナと闘う戦略図」)。
 
a. すごく変なことになっている日本のコロナ対策
   先ず現在の日本の「コロナ」対策は児玉氏の眼にはどのように映じているのか。児玉氏は、国際的には「コロナウイルスとの対応が21世紀になって劇的に変わってきて」いるのに、日本の新型コロナ対策は「すごく変なことになっている」と言います。そして更に、
 

「ステイホームとか何とかという格好で、感染してない人と感染してない人が接触しないのが大事みたいな話になっているが、そもそも感染症の科学というのは、感染している人をきちんと決めて感染してない人と接しないようにする。だから感染している人がどういうことかが大事なのに、普通の人がマスとして8割が何処にいるかをスマホで追いかけてるみたいな愚かなことになっている」
「感染している人をきちんと掴んで、それで治療していくというところに政策が行っていない」

 
   そして「ステイホームと言っても、病院だとか、グループホームだとか、警察なんかはグループでいないといけない」。「感染が……ライフラインをやっていると人たちのところにもどんどん潜り込んでいって」、「院内感染がいろんな病院で起こり」、次々に人が亡くなった、と言います。
   また、現在政府や東京都が示している「宣言」解除の基準については、「[抗体検査の結果から推量して]8万人感染した人がいると、100日の間に8万人罹ったとしたら、1日800人くらい罹っていたわけです。それが[把握された新規感染者が]十人だか、百人だかという議論をやっても[感染状況は]全然分からない」と言います。
 
b. 児玉氏の「対コロナ戦略」とは・・・
   それでは、児玉氏の「対コロナ戦略」はどのようなものか。その大筋は次の図で示されていると言って良いでしょう。

 
   以下では、児玉氏の発言から要旨に当たると思われるところを何点か箇条書きにしておきます。これで氏の「対コロナ戦略」が説明できていれば良いのですが、児玉氏の戦略の全体像は(「コロナと闘う戦略図」)で、ご確認ください。
① 感染者数を精確に摑むためには、かなり大規模な検査をやっていく必要がある。
② 具体的には、いろんな健康診断で、血液を採取したものを全部、抗体検査に回す。(抗体を定量的に計測できる検査=精密検査を行う必要がある(注6)。)
③ そのことで、どのようなグループに罹患している人が多いかが分かってくる。
④ 隠れ感染を見るのに、一億人全部PCRをやるのは無駄であるから、どういう人たちがハイリスクであるのかを見極めて、リスクの高い人たちからPCRをやる。
⑤ データで罹患率が多い集団は定期的に検査を行い、何処で感染が増えているかを把握する。
⑥ それぞれの人がどんな免疫機能を持っているか、ウイルスの変化がどういうふうに起こっていて(注7)、ウイルスのどの部分に対して免疫反応が起こっているかということを、よく見極める必要がある。
⑦ 新型コロナは、致死的ウイルスであるが、一人一人のリスクが違っていて、弱い方を守るような精密な対応を業種別にやる必要がある。
⑧ 新型コロナに対する治療薬が登場しており、発見したら隔離という時代ではなくて、治療するという時代になってきている。熱が出て、いろいろな症状が出て、コロナと分かったら、アビガンを投与する(注8)。次にレムデシビルやもう少し強い抗ウイルス剤があり、さらに免疫暴走が出たら、アクテムラという免疫を抑える薬を使う。
⑨ このウイルスはかなり消化管ウイルスとしての性格を持っている。したがって人―モノ―人の感染があり、靴の裏や「御手洗い」の周りの対応が必要となる。
⑩ 新型コロナの場合は、一般にワクチンが作りにくい。ワクチンが出来たとしても、完全に抑えられるワクチンではなく、重症化を抑えるワクチンとなるかもしれない。出来る時期も遅くなる可能性がある。
⑪ 専門家集団をきちんと集める必要がある。
 
7. “児玉戦略”は「対コロナ戦略」の土台になり得るのでは・・・
   以上の点を踏まえると、児玉氏の「対コロナ戦略」は少なくとも次の点で優位性を持っているのではないでしょうか。
① 検査体制については、限られたリソースの中で、感染者を把握する戦略が提起されている。なお、広範に抗体検査を行うことによって、感染状況が把握できるが、IgM陽性者を対象にPCR検査を行なえば、効率的に感染者を把握できる。(最初からPCR検査、抗原検査を行った方が良い場合もある。)
② 感染抑制については、「高齢者、障害者、病気の人」、「ライフラインに携わる人」、「高齢者との同居者」、「若い人」など、「一人ずつリスクが違う」ことを踏まえた対応が目指され、また一人づつ、あるいは集団ごとに対策を立てる点に優位があり、同時に「ステイホーム」に象徴される社会的活動の全般的な抑制を避けることが出来る。逆に言えば、これまでのように社会的活動の全般的な抑制を行っても、一人ずつの、あるいは集団ごとの「リスク」を踏まえて「精密コロナ対策」を採用しなければ、院内感染などの集団感染≒大量死を防ぐことはできない。
③ 隔離から治療への転換が図られることで、重症化と死亡が抑制される。
 
   さて、“児玉戦略”を採用することで、経済・社会活動を再開することが出来るでしょうか?現時点ではまだまだ検討すべき点がありますが、“児玉戦略”では「ステイホーム」に象徴される社会的活動の全般的な抑制策は採用されませんから、“児玉戦略”によって、私たちは、「ステイホーム」に逆戻りすることなく、経済・社会活動を基本的には再開することができるのではないでしょうか。
   新型コロナに対する戦略提言としては、すでに拙稿「戦略を欠いた「宣言」延長――いま「新型コロナ」に対してどのような「代替戦略」が考えられるか」で、木村 もりよ氏・関沢 洋一氏・藤井 聡氏の論文、上昌弘氏の主張などを紹介していますが、児玉氏の提起は、これらに較べて、さらに具体的な提起となっており、私たちが「対新型コロナ戦略」を考える上で土台となり得るものだと思います。「すごく変なことになっている日本のコロナ対策」から脱却するために、市民の皆さんそして政治家の皆さんには、是非“児玉戦略”をご検討いただきたいと思っています。
 

1.日本における、重症者数の推移についてはhttps://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ を参照していただきたい。
2.上昌弘氏はすでに4月23日に公開された記事で、「この冬はインフルエンザが流行しなかったのに、東京では2~3月、ほぼ毎週100人以上が亡くなっています。断定はできませんが、そこに新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった人も含まれているとしたら、2~3月にはピークが来ていたことになる。たしかに韓国や台湾のピークが2~3月だったのに、日本だけズレているのは不自然です」としている。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ccbe390a513ac59bf146eeb52dcde1736c818faf
「専門家会議」のほうは、5月29日に至って「新規感染者の報告から逆算して時期を推定したところ、ピークは4月1日ごろで、緊急事態宣言の前に流行は収まり始めていた」との見解を公表した。https://www.asahi.com/articles/ASN5Y66NVN5YULBJ012.html
3.本稿における経済、生活問題による自殺者に関するデータは、警察庁の以下のURLで掲載されているものによる。
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html
また失業率は、総務省統計局の以下のURLで掲載されている資料による。
https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html 
以下に、各年の失業率と経済、生活問題による自殺者数を表で示しておく。

4.「平 成 21年中 に お け る 自 殺 の 概 要 資 料」(警察庁生活安全局生活安全企画課)によると、平 成 21年=2009年の「経済・生活問題」の下位分類の中では、「生活苦」、「多重債務」、「債務(その他)」、「事業不振」などに起因する自殺者の方が、「失業」に起因する自殺者よりも多い。この点については、https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H21/H21_jisatunogaiyou.pdfを参照されたい。
5.統計上の数字と実数には当然ながら乖離がある点には、留意しておく必要がある。
経済・生活問題による実際の自殺者数を考える場合、自殺統計上で原因・動機が「不詳」とされるもの、さらに「変死体」と「失踪者」中にも経済・生活問題による自殺者も含まれている可能性を考慮すべきだろう。
また、新型コロナについても統計から漏れている死者を想定すべきと思われる。特に東京については、感染研が5月7日、「8-13週[2月から3月]に超過死亡がありました」とのデータを公表したことから、この超過死亡のうちのかなりの数が新型コロナによるものではないかとの説が提起された。その後(5月24日)、感染研は公表データを「8-13週の超過死亡」がないものに差し替えたが、感染研は元データを公表していないため、「超過死亡が新型コロナによるものではないか」との疑念が解消されたとは言えない状況となっている。(この件については、佐藤章氏の次のULRの記事https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020052600001.htmlも参照されたい。)
6.児玉氏は、簡易抗体検査に対しては否定的であり、また簡易抗体検査では偽陽性が多いとしているが、これに対して上昌弘氏は「私は児玉研のカットオフ値が未確立である可能性の方が高いと考えます」としている。( https://twitter.com/KamiMasahiro/status/1267233771566190593
この他、児玉研に検体の定量検査を依頼した「ひらた中央病院」の非常勤医・坪倉正治氏は、「[簡易抗体検査]キットの陽性の多くが偽陽性であり、定量検査陽性が真の陽性であると感じるかもしれないが、それを証明する根拠は十分に無い。今回の定量検査のカットオフは10 AU/mlと置いているが、5-10 AU/mlあたりでは感染が無いということを言い切ることは出来ない。」としている。(http://medg.jp/mt/?p=9661
7. ウイルスの変化の解析の重要性については、「ワクチン効かなくなる可能性も…ゲノム医療の第一人者が警鐘を鳴らす「コロナ強毒化」 を参照されたい。この記事の中に、中村祐輔・シカゴ大学名誉教授の次の発言が載っている。
「感染者の血液などは国立感染症研究所(感染研)や保健所で厳格に管理されているので、国として大きな研究チームを組まない限り、多くの技術者たちにウイルスのサンプルは回りません。本来ならばウイルスの塩基配列をどんどん調べて、重症化した人と軽症で済んだ人に何の違いがあるのか、データにして今後の備えにしなければならないはずです。遺伝情報は感染ルートの分析にも役立ちます。私は感染研にウイルスのサンプルを一括して集め、すべて遺伝子解析するべきだと思います。その代わり、得られたデータは直ちに情報開示する必要がある。検査自体は簡単で、5万人分のウイルスの遺伝子解析が1日でできるような仕事なのに、いまだに行われません」
日本の感染研は国として大きな研究チームを作ってウイルスの塩基配列を解明していこうとはしていないということである。かれらにとっては、データの独占が肝心なので、得られたデータの情報開示につながる開かれた研究チームは作りたくないと推量される。これでは上昌弘氏に「感染症ムラ」(https://www.fsight.jp/articles/-/46990)と揶揄されても仕方がないであろう。
8.アビガン(=ファビピラビル)については、たしかに催奇形性が報告されており、妊娠している人などには投与できないが、新型コロナで重症化する人の多くは高齢者であるから、多くの感染者にとってはこの副作用は妨げにならないだろう。アビガン(=ファビピラビル)の治療効果は、国内では未だ確認に至っていないが、6月9日の共同通信の記事「研究により、ファビピラビルが明らかに有効、生産及び使用が多国で開始」によれば、海外ではその効果は認められつつある。
なお、早い時点でアビガン(ファビピラビル)の治療効果を認めた「深圳アビガン臨床試験論文」については、https://note.com/atarui/n/n26b0bef28f75を参照されたい。
 
(なるみゆう)
 
(pubspace-X7831,2020.06.11)