日常―森忠明『ハイティーン詩集』(連載6)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
日常
 
空が朽ちないのは私が在るのと同義で季節は私を思って回帰している
頭にCOSMOSがあって足もとにコスモスが揺れている
私と樹のとにかく低い調子のダイアログが
理の当然として宇宙に繋がらなければいけない
視えるものが私を不和にしがちで病弱な少女が退学して一時限はグラマであり
私には気負って愛するものが無い
牛乳壜の中で菊の根が腐って昼の中に私が居はじめると
たれもかれもその温和で手近な遠さを圧倒しにかかる
表は荒天で私ばかりか多くの人が飢え
彼らの血は思いあまって街道にあふれだす始末だ
気のきく生徒が黒板に造花を飾りもの静かな光景が蛇を吐き、
私の心は冷えたホットドッグとともに自由販売である
切迫した時間と切ない時間の中で私は母を泣かせ
襟首の美しいエレベーターガールが四階で故障を告げる
空の分別くさい深さに私はアレルギー鼻炎をわずらい
十文七分の跫音いくつかがせいぜい私を甦かすだろうということで
とてつもなく詩的な日常に還ってゆく
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x7823,2020.05.30)