「新型コロナ」、日本でも感染爆発は起るのか?対策は?

鳴海 游

                                         
   
   3月中旬頃から、日本国内での新型コロナウイルス(COVID-19)(以下では「新型コロナ」と表記)感染がじわじわ拡がっています。日本もやがて感染爆発に到るのでしょうか?それともそれを防ぐ手立てはあるのか?
   まず、世界での新型コロナ感染の感染状況を確認することから始めましょう。
   
1.世界的流行の状況は?
   https://www.worldometers.info/coronavirus/ がApril 01, 2020, 10:06 GMTアップデイトした世界の感染状況は、症例数 872,696, 死亡者43,269, 回復した患者: 184,514となっていて、下の図からも、感染の拡大が急速に進んでいることがわかります。
   

   また上記時点での上記サイトで示されている国別の状況の一部を表示すると次の通りになります。
   

   感染が始まった中国では感染拡大は、少なくとも一端は抑えられているが、そこから飛び火した、ヨーロッパやアメリカなどで感染の爆発が起こっていることを、念のため確認しました。
   
2.「新型コロナ」の流行はどこまで拡大し、どれだけの犠牲者をもたらすのか?
   新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)による死者数の推計としては、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)が26日、感染拡大を抑止するための迅速かつ厳格な措置を取ったとしても、今年世界で180万人に達する可能性があるとの研究結果を発表しています。( https://www.afpbb.com/articles/-/3275587 )
   この研究によれば、各国政府が検査や検疫、対人距離の確保(ソーシャル・ディスタンシング)の確保といった厳格な公衆衛生対策を迅速に導入すれば、数千万人の命を救うことができるとのこと。裏返して言えば、<そういう対策が出来なければ、数千万人が命の失うことになる>と言うことでしょう。
   
3.「新型コロナ」パンデミックはどれほど続くのか?
   パンデミックの持続期間については、米政府の『COVID-19対策プラン』(4頁)に、仮説(Assumption)として「パンデミックは18カ月かそれ以上続く。またそれは複合的な病気[流行]の波を含むかもしれない。」(A pandemic will last 18 months or longer and could include multiplewaves of illness.)と述べられています。( https://int.nyt.com/data/documenthelper/6819-covid-19-response-plan/d367f758bec47cad361f/optimized/full.pdf )
   一度の流行でお終いになるのではなく、二波、三波と流行が繰り返されることが想定されている点も重要です。
   「新型コロナ」パンデミックが180万人から数千万人の命を奪い、その期間は18カ月以上に及ぶ。おそらく私たちは、そのようなパンデミックの始まりを見ているのでしょう。
   
4.日本ではいまだに被害が限定的なのはなぜ?
   「新型コロナ」の世界的な感染の拡大のなかで、日本での感染は、今のところ感染拡大は諸外国と比べて相対的には抑えられているように見えます。もちろん感染者が少ないのは、PCR検査が少ないことにも因るのは容易に想像できますが、死者数はそれほど誤魔化されていないと思われる。なぜ日本は死者が少ないのか?
   これは、諸外国から見ると不思議なようで、<ニューヨーク・タイムズ電子版は26日……「厳しい外出制限をしていないのに、イタリアやニューヨークのようなひどい状況を回避している」と指摘、世界中の疫学者は理由が分からず「当惑している」と伝えた。>。<米コロンビア大の専門家は、日本のやり方は「ばくち」であり「事態が水面下で悪化し、手遅れになるまで気付かない恐れがある」と警鐘を鳴らした。>( https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020032701001789.html?ref=rank )
   この「恐れ」は、もちろん現実のものとなるかもしれません。じっさい東京都の感染者確認数は急増している。
しかし、これまで感染拡大が抑えられていたのは何故なのか? よく挙げられるのは、<日本人は良く手を洗う、レストランでは必ずおしぼりが出る、マスクもする。また欧米とは習慣が違っていて、日本人はキスやハグはあまりしないからだ>という説です。しかし、これだけで説明できるのか、ちょっと疑問です。他の説明はないのか?
   佐藤彰洋氏(横浜市立大学データサイエンス学部教授)は、<今ヨーロッパなどで流行しているCOVID-19は極めて感染力が強いものだが、これまで日本国内で主として確認されているものは、欧州で流行しているものに較べれば、感染力は弱い>と考えている。( https://www.fttsus.jp/covinfo/#Tokyo )
   この点は、上昌広氏(医療ガバナンス研究所理事長)も次のように言っています。
   「日本と欧州の流行状況を知ると、両者は同じウイルスによるものとは思えない点が多数ある/中国で注目すべきは致死率が都市によって大きく異なることだ。/死亡率が低いのは、アジアでは共通の傾向だ。湖北省以外の中国の致死率が0.8%である/3月4日、北京大学の研究者たちは、新型コロナウイルスは毒性が異なる2種類が存在すると報告した。湖北省で流行したのは毒性が強いものらしい。/アジア人と欧米人のゲノムの差が影響している可能性も高い。/いずれにせよ、アジアと西欧の新型コロナウイルスを一律に論じるべきではない。」( https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/japanindepth/nation/japanindepth-50875 )
   「新型コロナウイルスは毒性が異なる2種類が存在する」と言う考えも、ヨーロッパとこれまでの日本の感染状況の差を説明する仮説と言えるでしょう。
   
5.BCGが効いている?
   さて、相対的には日本での感染拡大は抑えられていることを説明する仮説には、もう一つあります。それはBCG接種と新型コロナの関係です。これについては大隅典子氏(東北大学大学院医学系研究科教授)の「【さらに追記しました】新型コロナウイルスとBCG」という記事を引用しますが、大隅氏の記事の元は、JsatoNotesというサイトの記事( https://www.jsatonotes.com/2020/03/if-i-were-north-americaneuropeanaustral.html )です。
   「ざっくり結論を言うと、BCGの接種が行われている国では、COVID-19の広がり方が遅いという「相関性」があることについての指摘である」(https://blogos.com/article/446483/?p=1 )
   大隅氏の記事に載っている地図では、BCGワクチンの接種状況によって国を色わけされているのですが、今回新型コロナが猛威を振るっているのは、この地図でオレンジ色の「BCGワクチンの普遍的な接種プログラムが無い国」(イタリアやアメリカ合衆国など)や紫色の 「以前は誰にでもBCG予防接種を推奨していたが、現在は推奨されていない国」(スペイン、フランス、イギリスなど)です。これに対して黄色の「現在、BCGの予防接種プログラムが実施されている国」は相対的に感染は抑制されているというわけです。(なお、大隅氏の表現では<70歳代以上の日本人はBCG接種を受けていない>ように誤解される惧れがあると思います。)
   またBCGワクチンの種類によっても違いがあって、独自のワクチンを使っているイランの感染者・死者は多いが、日本種のワクチンを使っているイラクは感染者も死者もはるかに少ないと言われる。
   以上のことは、もちろん単なる偶然かもしれないのですが、新型コロナウイルスへのBCGワクチンの効果を検証する動きが広がっているのも事実です。( https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/bcg.php )
   BCGワクチン接種――特に日本種の――が「新型コロナ」流行を抑制しているとしたら、朗報ですが、日本は高齢者大国、80歳以上の方々だけで一千万人以上いる。高齢者――それに疾病を抱えた方――が「新型コロナ」に弱いことに変わりはないでしょう。
   3月30日現在のデータ( https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ )によると、日本の「新型コロナ」による死者の年齢別の内訳は、40代以下0名、50代2名、60代1名、70代19名、80代27名、90代6名で、70代以上が圧倒的です。つまり新型コロナが蔓延すれば、多くの高齢者等が被害にあわれることになるのは避けられない。やはり<高齢者等をどう守るか>を考え、これに力を注がなくてはならないでしょう。
   (高齢者の感染対策としてBCGワクチン接種も考えられるのではないでしょうか?この点については、https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/237265.html もご参照ください。)
    
6. 感染確率 無症状と症状ありで大差なし?
   もう一つ、中国・浙江省の寧波にある疾病対策センターの研究で「新型コロナウイルスの陽性反応が出ても症状がない「無症状」の感染者から濃厚接触者にウイルスが感染する確率は、症状がある感染者と大きな差はない」とされている点も大きな問題でしょう。( https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200330/k10012357581000.html )
   「無症状」の感染者からも感染することは分かっていたのだそうですが、その確率が大差なしであれば、今後の対策に大きな影響を与える。この点も検証が求められているでしょう。
   
7.「社会的距離」をどこまで取るのか?
   現在の日本の状況は、東京などを例に取れば、明らかに感染が拡大していますから、<感染爆発は避けるためには、「社会的距離」を相当に取ることが必要である>というのは理解できます。しかし何処まで距離を取るべきか。
   佐藤彰洋氏は、<3月10日以降の感染拡大は帰国者によって、ヨーロッパで猛威を振るっている感染力の強いウイルスが持ち込まれたことによる>という仮定の下に、次のように言います。(なお、この仮説については、岩田健太郎氏は「海外渡航による感染例は、実は追跡が簡単なので大きな問題ではない」としています。)
   「欧州亜型の感染拡大が収まるまでは、ヒトとの接触をしないようにするべきである……。全ての人がこの行動を取り、それを14日間以上にわたり継続することで、東京都において、その実施日14日後……から感染者確認数の減少を確認できる」( https://www.fttsus.jp/covinfo/#Tokyo )
   これは、「ウイルスと共存する長期戦略は存在しない」( https://www.fttsus.jp/covinfo/remarkable-comments/ )と言う認識にもとづくものですから、<短期決戦主義>と名付けてよいでしょう。
   我々は、このような<短期決戦主義>を採用すべきでしょうか?
   
8.「新型コロナ」への対応は「長期戦」、その戦略は?
   渋谷健司氏(WHO事務局長上級顧問)の次の指摘を読むと、新型コロナウイルスを<短期決戦>で終息させることはできないと思われます。 
   「十分な集団免疫を持たない限り新型コロナウイルスが終息することはない。一度封じ込めたとしても、パンデミックである限り世界のどこからでも国内に入り込み、再流行する可能性がある。」
   「封じ込めに成功した中国やシンガポール、香港なども第2波、第3波の流行を警戒している。必要があれば、再度の都市封鎖も検討しなければならない。」
   「十分な集団免疫を獲得するにはワクチンあるいは自然感染で人口の70%程度が感染して抗体を持つ必要がある。」( https://bunshun.jp/articles/-/36980 )
   上昌広氏もつぎのように言う。
   「ロックダウンでは、集団免疫が獲得されないため、ワクチンが開発されない限り、一時的に流行が抑制されても、外部からの再流入に怯えねばならない。」( https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/japanindepth/nation/japanindepth-50875 )
   また岩田健太郎氏も「長期戦になるのは間違いない」と言います。( https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/japanindepth/nation/japanindepth-50875 )
   と言うことで、<「新型コロナ」への対応が「長期戦」になるのは必至>、そう考えてよいでしょう。
   
   それではその「長期戦」にはどのような戦略が必要なのか。
   渋谷健司氏はつぎのように言います。
   「パンデミックへの対応は、ほぼやることが決まっている。……それは、「検査と隔離」である。……各国がそれを無視してきたことこそが、今回のパンデミックの大きな要因の一つである。
   日本の新型コロナウイルス対策は、いわゆるクラスター(集団感染)対策を軸とし、検査は疫学調査の一環として行われてきた。」
   「しかし、ある程度国内で流行してしまったら様々なルートで感染は拡大し、クラスター対策の効果は限られてしまう。特に、検査で見つかっていない軽症例や症状のない感染者が感染を拡大させる可能性が高いため、本来であれば検査体制を拡充させ、疑わしい場合にはできるだけ迅速に検査を行うことが望ましい。だが、日本の検査実施数は諸外国に比べて極端に低いものになっており、検査不足により見逃されている症例があることが懸念されている。」
   「感染爆発が起こりうる段階では、社会的隔離の徹底、そして必要があれば、都市封鎖などをして時間を稼ぐ必要がある。世界の医療関係者が最も恐れていることは、感染爆発が起こった時に、重症者で病院があふれてしまいイタリアのように医療崩壊が起こることだ。都市封鎖の目的は感染爆発による患者数の急増を抑え、感染ピークを遅らせることだ。」( https://bunshun.jp/articles/-/36980 )
   
   次に、上昌広氏の見解。
   「現在の西欧のように致死率が高い感染症ならロックダウンはやむを得ない。一方で致死率が1%を切るような、比較的毒性が弱い病原体の場合はどうだろうか。」
   「ロックダウンは大きな経済的なダメージを与えるし、さらに高齢者の健康を害する懸念もある。…‥都市の活動を抑制することなく、感染爆発を避けながら、介護施設や病院を重点的に守るという戦術もあるはずだ。」( https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/japanindepth/nation/japanindepth-50875 )
   「100万人あたりの検査数はドイツの17分の1だ。感染の実態を正確につかみ、きちんとした対応策を打ち出すには、検査の拡充が欠かせない。」( https://twitter.com/KamiMasahiro/status/1245477524475269120 )
   「新型コロナウイルスによる医療崩壊は、病院にコロナ患者が押し寄せることでなく、院内感染で病院にコロナが蔓延することで起こります。」( https://twitter.com/KamiMasahiro/status/1245121838146965504 )
   「感染爆発は病院で起きていると考えた方がいいだろう。若者の行動を規制したり、LINEで調査する前にやるべきことは多数有る」( https://twitter.com/KamiMasahiro/status/1245194187231784960 )
   「東京は600人の感染者のうち、96人が永寿病院です。千葉県は160人中、80人以上が障害者施設です。日本のコロナ感染拡大は「院内感染爆発」の可能性があります。クルーズ船と同じ問題が起こっています。」( https://twitter.com/KamiMasahiro/status/1245274561953689601 )
   「これまでに報告された院内感染は氷山の一角だろう。院内感染を公表した病院の多くは国公立かJAなどの大規模病院グループだ。院内感染対策に力を入れている病院ばかりだ。」( https://twitter.com/KamiMasahiro/status/1245534886942793728 )
   
   そして、岩田健太郎氏の見解。
   「これほど感染者が増えている段階なので、(数を把握するための)人口をもとにした抗体検査をすべきだと考える。実際、イギリスではすでに350万個の抗体検査キットを準備している。」
   「軽症者は入院させず、重症者にケアを集中させるべきだ。日本の医療には無駄が非常に多く、医療従事者に余裕がない。無駄を排除することで余力をつくり、キャパシティを増やせる。」( https://forbesjapan.com/articles/detail/33340 )
   「都市機能の制限を強くし過ぎると人々は疲れるし、飽きる。/油断が広がると、まん延のきっかけになる。」
   「ある程度リラックスする時間を意図的に作らないと疲れてしまう。・・・・・・病院の中でもそうだが、緊張した状態が続くとミスが増える。上手な休養の取り方も必要だ。」
   「地域によって感染の規模やリスクが違うので、それぞれにおいてテンションの上げ方、下げ方を正確に判断することが必要。」
   「従来の日本の感染対策では、全国一律に同じ対策をとっていた。……上意下達のやり方だったわけだが、今回の新型コロナウイルス感染症では通用しない。/日本の社会が昔から苦手としていた、その場その場の状況判断が必要とされている」( https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/japanindepth/nation/japanindepth-50875 )
   
9.取り敢えずのまとめ
   以上のような指摘から、「新型コロナ」対応の戦略も見えてくるのではないでしょうか。
   ①十分な集団免疫が獲得されるまでの「長期戦」となるが、医療崩壊を起こさせてはならないこと、②感染状況を把握するために検査(PCR検査、抗体検査)の飛躍的拡充が不可欠であること、③「社会的距離」の取り方は、地域や状況に応じて硬軟両様の態度でのぞむこと、④軽症者などを収容する施設を確保して医療従事者に余力をつくり、キャパシティを増やすこと、などが考えられるでしょう。
   このうち医療崩壊を防ぐ手立てとしては、各国に倣って、オンライン診療を拡大する、専門施設をつくるとか、ドライブ・スルーでのPCR検査を行うなどが、必要だと思われます。なお、院内感染対策については、浙江大学医学院付属第一医院が「新型コロナウイルス感染症対策ハンドブック」(日本語版もあります)を発表しています。( https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00113/033000007/?n_cid=nbponb_twbn )
   また「社会的距離」を確保するために、事業の停止を要請する場合には、それによって発生する損失に対する補償を政府が行う必要があることも、言うまでもないでしょう。
   「新型コロナ」は未知の領域の存在ですから、専門家でも分からない点が多い。ですから、私たちは、柔軟にーー空気を読まずにーー思考し、試行錯誤を繰り返しながら、対応策を考えていくしかない。この点で、かの「専門家会議」は多くの問題を抱えているようですが、ここではその問題には触れません。
   
10.補足――山中伸也氏の提言の紹介
   最後に山中伸也氏(京都大学iPS細胞研究所所長)の提言の要点を紹介しておきます。
   
提言1 今すぐ強力な対策を開始する
わが国でも、特に東京や大阪など大都市では、強力な対策を今すぐに始めるべきです。一致団結して頑張り、ウイルスに打ち克ちましょう!
提言2 感染者の症状に応じた受入れ体制の整備
無症状や軽症の感染者専用施設の設置を
重症者、重篤者に対する医療体制の充実
提言3 検査体制の充実(提言2の実行が前提)
必要な検査を安全に行う体制の充実が求められています。
提言4 国民への協力要請と適切な補償
国民に対して長期戦への対応協力を要請するべきです。休業等への補償、給与や雇用の保証が必須です。
提言5 ワクチンと治療薬の開発に集中投資を
産官学が協力し、国産のワクチンと治療薬の開発に全力で取り組むべきです。( https://www.covid19-yamanaka.com/cont6/main.html )
   
(この文章は、私が関わっている市民団体に対して、「新型コロナウイルス」感染についての認識と「感染対策」についての考えとして提示したものです。今後、必要に応じて、訂正を行うつもりです。)
 
 
(なるみゆう)
 
(pubspace-x7708,2020.04.02)