サムシング―森忠明『ハイティーン詩集』(連載3)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
サムシング
 
 
正直いって僕は  何もかも欲しかった
できれば
足首の綺麗にくびれた女友だちが欲しかった
そして
シベリア鉄道の片道料金ほどの金が欲しかった
そのうえ許せば
無粋なほどに厚い胸が欲しかった
 
僕は何もかも呼んでしまいたかった
愛らしいデニムの吊りズボンから今日まで
呼びつづけてきたような気もするが
実は何ひとつ呼んではいなかった
ただ仔犬の媚情が湿った季節の中で
僕はいつの間にか腹筋を痛めていた
 
僕は何もかも視たかった
僕の頸が星を仰げるように付いていること自体
こぼれ幸いにちかかったのだから
僕は泣いて喜ぶのが自然だと思った
そんな僕が目を瞑って視たものといえば
昏さ以上の何者でもないが
 
十八年の正義をはらはらさせるような
さし迫った昏さが思いもかけず
僕を元気づけようと  けなげで居た
 
 

●今月の詩 寺山修司
  今月は森忠明君の詩がよかった。三編送ってもらったが、とくに「サムシング」がよかった。たいへん素朴に自分自身の欲望と対決している。最近の入選作のなかでも好きなもののひとつである。もうひとつの「日常」という作品の一節の
「空が朽ちないのは私が在るのと同義だ」
という発想もヒロイックでいいと思った。
 
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x7669,2020.02.29)