2019年春 中国・撫順ちょっと旅

藤井建男

   三月末から5日ばかり私的な用事で中国・遼寧省撫順市に5日間行ってきました。『黄泥街』(残雪著 白水社新書 2018刊)をバックに入れて。用件もありましたので本に没頭するわけにいきませんでしたが、中国の空気の中で読むと肌で感じるものが違うと思ったので…。
   訪ねたのは瀋陽市の西、巨大露天掘り炭鉱で有名な撫順市。年金で暮らす平凡な労働者の家庭での五日間でした。中国有数の工業都市ですが、十年ほど前に建設された高層マンション群の横に、戦後建てられた労働者団地が張り付いていて、建設バブルが終わり建設中断のマンション団地がその向こうに見えると言った光景が随所にありました。人々の暮らしの表情は8年前に訪ねた北京オリンピック前後の活気とは違ってどことなく煤けた感じがあり、そうかと思えば高級外車、日本車、中国産車、スクラップの様なトラック、3輪のタクシーがクラクションを鳴らして狭い路地にまで入り込み、活気の様ないらだちの様な空気が流れる情景を見る毎日で、いろいろ考えさせられて戻りました。
 

写真―1

   写真―1は8年ほど前に建設された超高層マンション群と建設バブルに取り残された労働者の団地(手前)です。このマンションの13階、世話になった嫁の両親の暮らす部屋の窓から撮ったもので、右の古い団地は戦後間もなく建設された労働者団地で相当傷んでいます。バブルが過ぎて再開発計画が滞っているそうです。
 

写真―2

   写真―2は撫順労働者団地の地域の市場です(市の中でも大きい方だそうです)。2キロ近く露店が続くもので、こういった感じで鮮魚・海産物、野菜・穀物、肉から煮物、揚げ物、饅頭、日常品の露店が並びます。この地域は朝鮮とも近いこともあり、同じような食材の露店が平気で軒を並べていて不思議な感じでした。強く印象に残ったのは、こうした小さな露店のほとんどでスマホのQRコードによる、キャッシュレスな取引が可能になっていたことでした。写真―3は古い労働者住宅の前の“ごみ出し場”で数人の男性がごみを選別している光景です。
 

写真―3

 
   わずか5日間の逗留で見た範囲ですが今の中国が抱えている困難が少し見えたような気がしました。と同時に、日本では感じられない民衆の底力の様なものを感じたのも事実です。

(ふじいたけお:画家)
(pubspace-x6834,2019.07.10)