女流探偵―森忠明『ハイティーン詩集』(連載28)

ハイティーン詩集以降

 

森忠明

 
女流探偵
 
アポロ11号が月に着いた日に
砂川の農家から黒い雌犬をもらって
ポロという名をつけた
旅先から〈森ポロ様―おまえのご主人は
   由布院の野犬に惚れられたぞ。嫉きたまえ〉
なんて葉書をだしたっけ
いつも車に乗せていたが
ある日愚妻がおれをにらみ
「ポロの毛とは違う毛が助手席にあったわよ」
と言った
昔、森鴎外の奥方も
冨山房からきた手紙を
ふさという女からだと邪推したらしいので
とかく女は と一笑に付した
しかしテキはおれを許さず
八王子の弁護士を二人も雇い
取るものは取って出て行った
二度目の妻は推理小説ファンなのに
ホームズみたいなまねはせず
ほっとしていたわけだが
それとの間にできた娘はおれをにらみ
「森蘭なんて名前よりサカモト・リリカがよかった」
と何度も言う
まだ漢字を知らないから
坂がいいのか阪にするのか
本にするのか元がいいのか
きいてはいないが
どいつもこいつも勝手にせい
おれは女よりも犬が好きなのだ
娘以外の女の頸なら絞められる
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x,2022.03.31)