夏―森忠明『ハイティーン詩集』(連載23)

小詩集『おれは森忠明だ』(1967)  寺山修司編

 

森忠明

 

 
   立川基地拡張反対を叫ぶビラと外人ヌードショウの引札を一枚ずつ握った優しい父親が帰ってきて息子が「ジュデイは幸福です」を見終えると扇ひろ子がみなさまから愛される歌手になりたいという0時半から朝6時まで停電ですと告げる東京電力の車とすれちがって本屋に入ると盗難防止鏡に膨んだ息子の顔がある   東洋大学教授村田宏雄の性生活の技術と心理を立ち読んでから首都美化推進モデル地区を通り抜け区画整理反対非常鐘の赤いドラム罐を小さく蹴って中元セール中のエスカレーターに佇つと面長のエスカレーターガールが真っ白い手袋の中の加算器で私を511と刻み五階で若い男が万能おろし器を実演し若い女が“ステレオセットにお手を触れぬ様にお願いいたします”のカードを揚げると奥からシル・オースチンのセプテンバーソングが流れてきて息子は今日も家族との夕食を忘れている。
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8340,2021.10.31)