鉄道―森忠明『ハイティーン詩集』(連載5)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
鉄道
 
私は何の気どりなく深呼吸する安穏な旅客だったはずだ
子供のように大声で小さな駅の名を叫んでみようとしたけれど
私は既に幾つの隧道を潜ったのかも忘れていた
山を縫い河を渡る鉄道は無欲に伸びて地平を越える
限りない地平を静かになしくずして行くことで
一体誰が生きるのだろうかは
一本の日本国有鉄道の知るところではないが
一感傷少年の行方をぶっきらぼうに示していることは事実であろう
 
車窓には見知らぬ季節がへばりつき
夕陽のような月がある
終着駅の改札で
思わず眩しそうな顔をする私の幽かな私らしさを
生きがいにするような迎えの人を
私は信じてもよいのだろうか
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x7784,2020.04.30)