―—NHK東京児童劇団第46回公演――
森忠明
一九七三年、二十四歳の春に児童演劇脚本でNHK賞をもらってから半世紀近く、NHK東京児童劇団二百人の少年少女のために、ファンタジーというか「メチャラメ」(まど・みちお先生の言葉)な戯曲を多く提供してきた。
はたちの夏、寺山修司作『書を捨てよ、町へ出よう』の劇中劇でデビューしていた私には、いわゆる新劇風リアリズムは拷問的な苦痛としか思えなかった。当時も今も、真の「言論の自由」などありもしない本邦で「アヴァンギャルド」とは名ばかり、虱の皮を槍 で剥いでいるような舞台が〈芸術面〉をさらしている。まして“日本平凡協会”たるNHKにおいては、いささかヤバイことが出来るところといったら視聴率の低い『ETV特集』と、観客が身内ばかり?の我が東京児童劇団ぐらいなものだろう。
昔から「日本一のテックオンチ」と嘲笑されている森忠明にとって、現代テクノロジーや某国の秘密戦争などを題材としたこんどの台本作りは正直むずかしかった。しかし、天は、この超アナログ作家を見捨てない。地元の五日市図書館は、月に二、三回、無料で廃棄本をくださるのだが、その中に『大和の朝廷の国づくり』(1981、みずうみ書房刊)もあり、P243の下段に、
〈仲麻呂は、七五八年正月に、この問民苦使を(諸国に)派遣し、七月から九月にかけては、その報告にもとづいて、政治のしかたを変えたりしている〉
という注釈がついていた。
以来、「モミクシ、モミクシ」と呟く日が続き、
「千三百年前の藤原仲麻呂のほうが、令和の政治屋どもよりもdecency、マトモじゃねえか」と舌打ちを重ねて一年、ようやく構想あいなったのである。
他に『レーザー物理学入門』とか『化学の基本6法則』とか『実験動物たちの悲愴』とか、計二十冊ものリサイクル本のお世話になった。これは神助としか考えられらない。
さて、あとは開幕を待ち、劇団員と一流どころスタッフ諸家の健康を祈る。
おととし公演(拙作『シアワセナオシ十万年』)の楽日のこと―― セリフが一つしかないにもかかわらず、人ごみをかきわけ私に駆け寄った小学二年生・土谷乾人君は、
「こころから尊敬しています、握手してください!」
小さな手をさしだした。その一言こそ、どんな賞をもらうよりも光栄であり、“日本薄謝協会”の低ギャラにもめげずにやってこれた主因なのである。
(もりただあき)
(pubspace-x6896,2019.07.30)