終息―森忠明『ハイティーン詩集』(連載21)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
終息
   
優しい院長!
乳と血の芳香と共に忘れない貴殿のやさしみ
「家庭の医学」の指摘どおり死は登りつめ
隣のベッドのケイコさん
この厳冬の十二月 楽しかったありがとう
ぼくの病人は今 土鳩を放つような軽やかな目をしている
優しい院長!
鳥肌たてた看病人のぼくは真夜中
週刊女性自身を運んでいただいたりした
〈男泣かせ―――〉ケイコさんあなたの不運極まりない半生
酸素呼吸器の調節はむずかしく
新婚看護婦ヤナミさんのトパアズがとても魅力に光っていた
院長 ぼくらは悲しくも不死身ではなく
ケイコさんぼくは奇しくも女の不幸を知った
片っぽきりの乳房が見えますこの厳冬
ぼくらの生が続いてゆくということはケイコさん
あなたの悲しい問わず語りよりも秘めやかな頽唐だ
窓から見おろす市立公園の遊動円木もひっそりと
今ぼくの病人は死んでゆき
ヤナミさんのスピーディなアルコール消毒は
とてもかいがいしいものだった
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8267,2021.08.31)