恋着―森忠明『ハイティーン詩集』(連載20)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
恋着
   
愛を告げることも難しいけれど
その愛を受けることも難しいものです
と   リエコさんは言ったが
そういうものかも知れない
 
どうでもいいようなヒト   さようなら
第一流のオトコになると信じています
と   マサコさんは言ったが
第一流にはなれないかも知れない
 
あなたを本統に理解できないまま別れるなんて   とヒトミさんは言ったが
おれを理で解そうとしてたのかも知れない 
 
カズヨさんには春宵   枕を涙で濡らすような人がいて
マサエさんは純白ヨットやサイコロジー修了証書を持っているヒトとめおとになって
イクコさんは上州の国語科教諭になって消えた
畜生   で   おれは今日も会社へ突き進む
珊瑚海海上を舞台とするポートモレスビー攻略作戦は世界海戦史上初の空母対空母の戦いとなった……
しかし、健康保険なんてのはどこの誰が考えたのか   愉快だ
 
             
 
おれは今日も   パジャマを着つつある
ラジオに言わせると帝国ホテルのなんとかいう酒場にはドレスの色にカクテルの色を合わせたりする女
   が夜な夜なあらわれたりするのだそうだ
ヤスコさんはお父さんに「蔭で人の幸福を祈るようになりなさい」と言われたし
カズコさんは苦しくて太宰のように旅にでて今、津軽を歩いています
アサコさんは春がきたら新しいカーテンをこさえて窓をすこしあけて雨の音もききたいわー
その春の今   おれの父は
色とりどりのパンジーを自転車の荷台にくくりつけ
陽炎の中からあらわれて
おれを見つけてニヤッと笑う
〈いつの日かおれはきっといい人間になるだろう〉
で   おれは今日も会社へ突き進む
モリさんおはようございます
この頃気分よさそうね
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8242,2021.07.31)