此所―森忠明『ハイティーン詩集』(連載16)

(1966~1968)寺山修司選

 

森忠明

 
此所
 
此所へ何をしに来たか
 
鳩尾あたりの皮膚を眺めていると
おれにはおれの意義が
また わからなくなる
 
あと二年もすれば
都営団地の戸口のような胸をしておれは
ブラウン管の深さと同じ子宮を持った女と
この怖ろしく清虚な青春にきりをつけることになるが
その夜もまた目をとじて見る闇の無涯と
目をあけて見る天の無涯と
その中途あたりに見残す夢に怯え萎え
おれはしっかと嫁さんを抱き寄せることだろう
だが多分ゴムまりのように嫁さんは
おれを哀しく弾くだろう
そしてひとりの朝惑
剃そこなった口辺から滲み流れるおれの血だけが
人里はなれて咲く花のよう!
真紅に無意味に屹立するのだ
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8117,2021.03.31)