鳴海游
野党(そして市民)の政治的「ひ弱さ」を真剣に受け止めるべき
10月22日投票の第48回衆議院選挙は、自民党の圧勝で終わりました。今回の選挙、「モリ・カケ」疑惑の追及を免れるために臨時国会の冒頭(9月28日)、国会を解散するという解散権の濫用によって行われたものなので、ほんらい選挙の争点も、こうした安倍政権の政治の是非であったはず。
でも、小池新党(希望の党)の発足(9月27日結党の記者会見)と、前原代表による民進党の小池新党への合流の提起(9月28日両院議員総会)、そして小池代表の「リベラル排除」発言(9月27日)といったあたりから、政治の話題は、小池新党による「排除の論理・踏み絵」とか、これに対抗した「立憲民主党」の結党がメインとなり、その結果小池新党のやり方への反撥もあって、「立憲民主党」ブームとなりました。しかしその反面、野党勢力による安倍政治への批判は背景に退いてしまった。(「立憲民主党」登場による共産党の比例得票の大幅減や、公明党の安倍自民への追随への反撥に起因すると思われる公明票の大幅減も注目すべき点ですが、これについては割愛。)
そういう次第で、自民党はいわば野党(といっても小池氏や前原氏たち)に助けられたわけですが、しかし本当のところは、自民党と較べての野党の(そして市民の)政治的な「ひ弱さ」を真剣に受け止めなければならないでしょう。
「前原が勝てば民進党は破滅」――高野孟の予言が当たった。
さて、いまから二カ月余り前は、民進党の代表選が行われていたのですが、この時点で民進党の事実上の分解を予想していた人はほとんどいなかったでしょう。しかし高野孟氏は8月10日の段階で次のように語っていました。
「前原が勝てば同党[民進党]は破滅に向かうしかなく、枝野が勝つことでかろうじて蘇生への活路を開くことができるだろう――というのが私の見立てである。」(1)
高野氏がこのように断言された根拠を私は知りません。しかしこれを聞いたとき、私は前原氏に関する過去の件を思い出しました。一つは2010年9月尖閣諸島事件の際、海上保安庁を所管する国交大臣であった前原氏が何をしたのかということ(2)。もう一つは、菅直人の後継首相を選出する際に「アーミテージ元国務副長官しばしば来日。前原氏有力総理と日本の枢要なグループに説得」との情報があったこと(3)。こうしたことを思い出すと、「前原が勝てば同党は破滅に向かう」という高野氏の判断には信憑性があるように思えました。
ところが代表選挙では、民進党内リベラルと言われる人たちまでもが前原氏に投票したと言われる。野党共闘を求める共産党系と思われる方々の――代表選後の――発言も、「民進党への期待」という点ではあまり変わらないように思われた(4)。私などが「前原は信頼できない」というと、野党共闘に関わる市民の方々からは「野党共闘がなければ民進党は小選挙区で勝てないのだから、民進党は野党共闘を捨てられない」とか、「安倍に比べれば、前原さんは数千倍良い」と言われた。『どうしてそんなに自分の都合の良い情勢判断ができるのだろう・・・』と、正直呆れたものですが、政党関係者はもちろんですが、市民の皆さんももう少し政治的思考力・判断力を鍛えるべきではないでしょうか。市民の思考力・判断力こそが民主主義の土台なのですから。
野党『共闘』の結果は・・・。
さて、今回の選挙で自民党の圧勝を許したのは、言うまでもなく小選挙区で野党系の当選が極めて少ないからです。小選挙区で自民党と対等に闘えるようにならなければ、政権交替などあり得ない。だから「野党は共闘!」ということが言われたのですが、支持率が一けた台の野党が共闘しても、自民党への対抗勢力としては弱すぎる。それで「野党+市民」というようなことも言われだした。
ところが、私のようなものが市民運動に関わってみると、党派系活動家からは「候補者は党中央間で協議するので、市民が独自候補を考えるとか、出過ぎたことはするな」と言われ、共産党からは「直近の国政選挙の比例票に基づいて(各党の)小選挙区の候補者擁立(数)を決めるべき」と言われる。
私は「市民の視点からすると、『候補者は中央で調節しました、これで決まり』というのは、ピンと来ない。むしろこの選挙区で、誰なら勝てるの?ということで、候補者を決めるべきじゃないか?」と、共産党の方にも言ったのですが、もちろん組織決定がそう簡単に変わるわけもない。
結果として今回、三野党間の候補者調整でどれだけ小選挙区で勝てたのかと言えば、ブームになった立憲民主党でさえ17議席(5)、共産党、社民党は各1議席(ともに沖縄)でしかありません。
共産党や社民党の看板では残念ながら(沖縄などをのぞけば)小選挙区では勝てない。野党が候補者調整をしても――従来の民進党支持者や共産党支持者の票を取りまとめたくらいでは――勝てない。これが現実です。
これからの選挙ではこの現実を踏まえるしかないでしょう。保守だ、リベラルだという枠組みを越え、市民が自分で考えるところから始めなければ、政権交替は可能にならないのではないか。そして政権交代が可能でなければ、日本政治の腐敗は留まるところがない。
立憲民主党ができたが・・・。
さて今回の選挙の過程で、かなりハプニング的に立憲民主党ができ、これが一定の「受け皿」となって、野党第一党となりました。その立憲民主党、まだまだこれからどうなるかわかりませんが、すくなくとも「下からの民主主主義(6)」を提起したことは正しいのではないか、そう私は思っています。
でも「下からの民主主義」というのは、そう簡単なことではありません。たとえば連合に依存するようなら、「下からの民主主義」とは言えない。また特定の学者の説を権威にして政策の方向付けをするなんていうのも、「下からの・・・」とは言えないでしょう。
「下からの民主主義」は市民のもの
しかし考えてみると、「下からの民主主義」というのは、別に立憲民主党の専売特許ではなく、一人一人の市民が積極的にどう政治に関わるのかの問題です。
いずれにしろ、市民も政治に参加するのであれば、勉強が必要だし、また何より議論をする――人の意見を聴き、自分の考えを語る――習慣を身に付ける必要があるでしょう。いま、コミュニケーションはSNS(フェイス・ブックなど)に依存していて、意見の提示も応答も断片的なものに留まっているような気がします。これではじっくり議論をすることには程遠いですし、政治を本当に問題にできるだけの思考力もなかなか育たないのではないでしょうか。Eメールなどは議論をするには良い道具ではないかと、私は思うのですが、この考えは現代日本の市民たちには不評のようで、「メールは議論するためのツールじゃない」などと仰る。ほんとうは『デカルトなんかもメールで議論してたんですけど。メールで議論できないというのは、ツールを使ってる人間のほうに問題があるんじゃないの?』なんて言いたいところですが・・・。
無党派市民は、選挙後の政治にどう関わることができるのか。
さて、標題の「無党派市民は、選挙後の政治にどう関わることができるのか」ですが、立憲民主党は「下からの民主主義」と言っているし、共産党も「市民と野党との共闘を堅持する」と言っているので、文字通りの意味では、一般市民もいろいろと政党と関連する活動に関わることはできるでしょう。(もちろんその他にも社民党などの政党や各種の団体があります。)各地で結成されている「市民連合」なども市民が政治に関わる入り口としては、入り易いかもしれません。
しかしいずれの政党にしろ、あるいは市民連合にしても、今回の衆議院選挙を踏まえて考えるべきことは多いと思います。
特に野党の共闘あるいは連携は今後どうなるのか?どうするのか?そのなかで「市民連合」のような組織は、なにを目標とすべきなのか?
さらに思い浮かぶことを何点かを挙げてみます。
ジェラルド・カーティスはさっそく「彼ら[枝野たち]が権力を握れば日米関係には危機が訪れる(7)」と発言していますが、立憲民主党はこうしたジャパンハンドラーズの恫喝を撥ね退けて、「下からの民主主義」を貫くことができるでしょうか。いまはブームとなっているとは言え、幅広い市民との協力関係を構築すること抜きには、立憲民主党も闘いに勝っていくことは難しいでしょう。
共産党も――今後も野党共闘を推進していくようですが――「比例得票数を基礎に野党に小選挙区候補者数を割り振るべき」というような主張では、一般市民の理解は得られないでしょう。
また、力をつけた地域の市民たちからは、野党の応援というスタンスに留まらず、市民派の候補を擁立すべきだ、という声も出てくると思われます。
こうした問題にそれぞれの野党・団体そして無党派市民がどう真剣に向き合っていくのかが、問われていると思います。
(1) https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/211141/1
(2)元外務官僚孫崎享氏ならびに防衛官僚太田述正氏の推測を踏まえると、米国が民主党政権に尖閣諸島への中国船の侵入により強硬な措置をとるように要求したことが出発点と思われる。これを実現するために、まず自民党佐藤正久議員が質問主意書を提出して「尖閣諸島に領有権問題存在しない」との閣議決定を引きだし、これをもとづいて(前原国交大臣の所管する)海上保安庁が、中国漁船に対して初めて「国内法」を適用した。これに対して中国が強硬姿勢に出たため、今度は「検察」に『政治判断』を行わせて、船長を釈放した。詳しくは以下を参照のこと。
https://twitter.com/magosaki_ukeru/status/25470433102)
http://www.magazine9.jp/interv/magosaki/index1.php
http://blog.ohtan.net/archives/52030627.html
(3)https://twitter.com/magosaki_ukeru/status/2031017045004288
(4)例えばhttp://igajin.blog.so-net.ne.jp/2017-09-0
こうした発言は、むしろ運動上の必要からする「情勢認識」というべきかも知れない。
(5)無所属で立候補し、当選後立憲民主党の所属となった人を除いた数字。
(6)枝野幸男代表の演説(10月14日池袋)から引用した。演説全文は以下に掲載されている。
http://satlaws.web.fc2.com/edano1014ikebukuro.html
(7) https://www.j-cast.com/2017/10/23311924.html?p=all
この会見での「それを小池氏がぶち壊した」というカーティスの発言を聞いて、そもそもシナリオを書いたのはジャパンハンドラーズだったのではないか、という疑念を抱くのは、私だけだろうか。
(なるみゆう)
(pubspace-x4468,2017.10.27)