宮田徹也
今年も「ノー・ウォー横浜展」が開かれました(神奈川県民ホールギャラリー全室/8月11日~16日)。国内93人による約170点と国外31点、計200点余りの作品が出品されました。
ノー・ウォー横浜展は、2003年のイラク戦争に反対する美術家達が立ち上がり開催されました。13回を迎える今年は、敗戦70周年でありながら自国が戦争をしようと準備する最悪の年となりました。この動向に対して今回美術家達は、危機にさいなまれる作品で平和を訴えました。
「集団的自衛権反対 平和憲法を守れ」という横断幕が張られる会場に、増田敏郎さんによる具体的に骸骨を描いた絵画や、磯松法男さんが動物のみを描き作品題目で「シマウマだって戦争は嫌いだ」とアピールする作品が並びます。
映像作家・小林はくどうさんが監修した「映像ゲルニカシアターII」を見ました。アラン・レネ監督の《ゲルニカ》(1950年)は、世界大戦後の生々しい雰囲気を逃していません。これから日本が戦争に向うっているのかと思うと、平和が戦争と戦争の間の存在であることに身震いしました。そして真の平和は、戦争と切り離して考えなければならないことに気が付きました。
平面、立体という従来の手法に加えて、写真、舞台美術、人形劇など多種多様ですが、とりわけ詩人や批評家の文字による作品が目立ちました。作品が描けないから文字を用いて、現状に対するいらだちを直接ぶつけているのではありません。発信者ではなく、受信者が作品の真意を見極めるのが現代美術です。丁寧に読めば、言葉を発せざるを得ない緊迫感が伝わってきます。しかし受信者は文字の発信者と同調しやすいため、文字を読み続けていくごとに衝撃が増していきます。ここに文字と美術との違いが生じてくる感がありますが、発信者の平和を願うメッセージに違いは存在しないのです。
美術の中でとりわけ目を引いたのが抽象とも具象とも判断しにくい作品、若生のり子さんの《STOP IT!》です。波紋状に広がる画面の中で、右面は画面の中で人間が大きく手を広げて画面の奥に立ち入ることを禁じているように、左面は画面の中から広がる動向を画面の外で食い止めているように見えます。我々は外からの攻撃だけではなく、内なる欲望に対しても警戒しなければなりません。現代フランス哲学の大家、ドゥルーズ=ガタリの『アンチ・オイディプス』(1972年)にある「大衆がだまされたのではない。大衆が、その瞬間に、その状況のなかでファシズムを望んだ」という指摘と、若生さんの作品は呼応し合います。
来年の社会状況を予測して絶望するよりも、私たちは平和の維持を実現すべきなのです。
若生のり子《STOP IT!》 162x130㎝ 油彩・キャンバス
(初出、2015年8月23日付「新かながわ」 第2324号。 画像は若生のり子さん提供のものに差し替えています。)
(みやたてつや)
(pubspace-x2324,2015.08.27)