眼黒—森忠明『ハイティーン詩集』(連載30)

ハイティーン詩集以降

 

森忠明

 
眼黒
 
死んだ幼友だちを主人公にして童話を出版したら
舞鶴市立志楽小学校の五年生持田範昭氏からファンレターが来た
 
   ぼくわ、ただあきさんは
   つらいおもいとか よいおもいを
   かさねてきたんだなとおもいました。
   げんきで いつまでもともだちをうかべて
   きじをかいてくらさい。
   いつまでもいつまでも、きをおとさず
   がんばってくらさい。
   いぱいきじをかいてぼくたちにみしてくらさいね。
   さようなら、さようなら。
 
なるほど私のぶんがくは「きじ」だったのか
そうだ「きじ」こそ詩なのだ
舞鶴からの小さい鶴が大きいごほうびをくれた
楽を志す小学校というのもいい
これはうれしかった
二十年前
やっぱり死んだ幼友だちを主人公にして
三百枚の少年小説を書いたときは
八王子市の三十四歳の女からファンレターと電話が来た
素晴らしい御作品に身震いいたしました一献差しあげたい
というのである
添えてあった地図をたどって訪うと女は独り暮らしらしかった
広域暴力団幹部の高橋氏に
「百なりばばあでも女一人の家には上がっちゃいけないよ」
と教えられていたのだが
黒目勝の美形だったので上がってしまった
まず一献かと座卓の前でかしこまっていると
女は台所のほうからにこやかに現れ
一碗の飯と早稲田の臙脂色に似た鮪の刺身をドンと置いた
それだけしか出なかった
あのごほうびはおそろしかった
 
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8722,2022.05.31)