ハイティーン詩集以降
森忠明
水色セータ
― 俺が愛した七代目
橘家圓蔵は、セーターを
セータと発音した。
東大和のスナックバーで
ナポレオンをなめながら
カッパエビセンばかし食ってた俺を
君はばかにおかしがっていたけど
なぜなんだい
〈くつろぎとは
あらゆるヒロイズムを
すすんで失うこと〉
って書いたのはたしかロラン・バルトで
そうだとすればだな
酒の銘柄がよくなかったかもしれない
しかしエビセンは決してヒロイックな食い物じゃないぜ
俺はあの夜、千日ぶりくらいに
心底くつろげていたんだよ
そこへとつぜん
「森先生の
今の
心のささえって
何」
ときた
せんせいの心と頭のささえはだな
君の水色セータの
ゆたかな
ふたつの
ふくらみさ
(もりただあき)
(pubspace-x8955,2022.08.31)