反知性的な政治にどう対抗するのか?――国会前で考える

相馬千春

7月15日の夜、私も国会前に行ってきました。例の「戦争法案」を止めるために。
日本人は、永年「政治は政治家にお任せ」という人が多かったから、「国会前まで行かなくちゃ」なんていうのは、極少数だったと思いますが、この夜は違っていました。何万という人々。でも突然のことで組織動員を示す団体の旗の類は少なかった。だからそのほとんどが自発的に集まってきた人々だったのでしょう。

衆議院議員は「代議士」とも言わる通り、主権者=国民の「代理人」であるはず。しかし主権者は、各種世論調査でも明らかな通り、この法案に理解を示していません。これは安倍首相自身が15日の審議で認めたことですが、それでも強行採決する。これって「代理人」が「主権者」の意志に反して決定しているわけで、「国民主権」の否定じゃないか?彼らはいったい誰の「代理人」なんだ?
これじゃ、国民のほうも国会前まで出てくるしかない、「勝手に決めるな!」って。

そう「勝手に決めるな!」ってのが、この日のコールの一つでした。
「勝手に決めるな!」って言うのは、政治すべてについてそうなのですが、なかでも「勝手に戦争できるようにする」――これが今回の法案の本質でしょう――なんていうのは一番許せない。増税なんかとは話が違う。
なぜかって、戦争を始めるのは簡単ですが、始めた戦争は勝手に止めることはできないのだから。かつて「支那を懲らしめる」などといって始めた戦争は、アメリカとの戦争へと発展し、広島・長崎・東京をはじめとした日本の主要都市の壊滅にまで至りました。

安倍首相は、南シナ海まで自衛隊を出動させて中国と対抗する気のようですが、戦争が遠い南の海の上で始まったからといって、何処を戦場にするか、自分だけでは決められないのが戦争。中国との戦争が起きれば、日本を含むいわゆる「第一列島線」が戦場になるというのが、米軍筋などの情報をウオッチしているものの常識でしょう。
その場合に備えて、在日米軍(とその家族)はすでに撤収する訓練を行っています。しかし日本人は何処に「撤収」するのか。
日本には、原子力発電所が十数カ所もありますが、そこに弾道ミサイル・巡航ミサイルの飽和攻撃がおこなわれたら、どうなるのか? 多少の防空ミサイルなどでは防げるはずもない。結果は日本全体が福島第一周辺と同様の世界となる。
いま「戦争を出来るようにしよう」という人たちは、「戦争反対」という人たちを「平和ボケ」、「現実を知らない」と馬鹿にしますが、彼らこそが「ボケ」ている。ちょうど彼らの爺さんの戦争指導者たちが、まったく政治・軍事の「リアリズム」から逸脱して戦争を始めたように。

与党推薦参考人さえ「違憲」であると断定した法案を政府が提案するという事態、「立憲主義」の否定については、ここで言うまでもありません。

今日の安倍自民党・公明党政治の重大な特徴は、あからさまな「国民主権」の否定、「立憲主義」の否定ですが、もう一つ特徴があります。
それは「反知性的な政治」ということ。
細かいことをいう暇はありませんが、政府自民党のこの間の限りない嘘、限りない屁理屈。これほど社会を破壊するものはありません。これほどの虚偽と誤謬推論(?)は、コミュニケーションとそれに基づく社会関係自体を破壊してしまう。考えてみてください。ありとあらゆる人が安倍のような嘘と屁理屈をいう社会がどんなものかを。あなたの上司や部下、あなたの家族があんなことを言い出すようになったら、どうなるかを。
しかし如何に嘘と屁理屈を言おうと彼らに憲法を破壊することはできない。なぜならむしろ彼らのおかげで、憲法が若い人々の胸の内で息づき始めているのだから。
いま彼らが破壊しているのは、実は彼ら自身の支配体制に他ならない。なぜなら嘘と屁理屈によって国民の信頼を失ったなら、どんな権力者も、もう長くはないのだから。
そう、この日のコールの一つは「国民なめんな!」でした。

それにしても、7月15日は若い人たちであふれていました。学生、若いお母さんたちが政治の主体として登場してきています。解散した後も、若いお母さんたちが子供たちと「安倍はいらない!日本にいらない!」とコールしながら帰っていきます。
そんな彼ら・彼女らの眼には、党派や保守・革新の違いなんてのも、本質的なものではないのでしょう。
違う感覚・違う発想があっていいじゃないか。大事なことは互いを尊重し、嘘や屁理屈は軽蔑して、虚心に議論していくことではないか?
そんな人たちが集まって、自分たちの街に帰って、政治を変えていくことができないものか?15日の夜、国会前でそう考えたのは、私だけではないでしょう。
(2015.07.16執筆)

写真は7月16日午後2時頃のものです。

写真は7月16日午後2時頃のものです。

(そうまちはる 「公共空間X」同人)
(pubspace-x2127,2015.07.17)