ノエル―森忠明『ハイティーン詩集』(連載32)

ハイティーン詩集以降

 

森忠明

 
ノエル
 
1999年の聖夜
小金湯のだんなが
古くて立派な銭湯と自分に放火
金閣寺炎上!
と見紛う写真が新聞にのった
五十八歳 ひとりぐらしだったそうだ
いい男だったのに
 
1999年のノエル
小さなバーで君と横ならび
「いい死に方だ」と言うつもりが
「いいクリスマスだ」
などと言っていた
去年のいまごろ俺は
広島女学院のあたりをうろつきながら
死ぬことばかり考えていたのだから
 
帰りのタクシーで君の手に手をかさね
俺は小金湯の異常に高い煙突を思っていた
もう二度と太った聖者が
降りてこないだろうものを
 
(もりただあき)
 
(pubspace-x8911,2022.07.31)