ハイティーン詩集以後
森忠明
祝婚
――たとえば
マルクス主義者ではなかった
ジェニー・マルクス
どうして どうして
どんなマルキストより
マルクス主義者だった
やさしいおくさん
と私の詩先生はおっしゃっている……
人の世に 愛され易い女というのがあるように
棄てられ易い犬というのがあるように
夢見やすい男が在る
たとえば
銀河鉄道のジョバンニのように
カムパネルラという友情を信じたい
B&Wのジェイムズ・ブキャナンのように
二匹のスコッチテリアを愛したい
七つの海の男ポパイのように
オリイブという全霊を恋したい
たとえ
カムパネルラは溺れ死んでも
B&Wの株価が暴落しても
オリイブの魂がブルウトへ傾いても
男は夢を見つづけるだろう
しかし古来
希望が滅し易いのではない
処女が目廃易いのではない
男が夢見易いのではない
ジェニーが カムパネルラが
スコッチテリアが オリイブ・オイルが
男にとって
あまねし 愛の名 で あるからだ
そして男が地上の微生物であり
あなたが天空の美生物であるからだ
そしてその中空を流れる風が風を
痛みが痛みを 夜が夜を
静かに見届けているからだ
一九七三年二月
オザキと邦子さんのために
(もりただあき)
(pubspace-x8385,2021.12.31)